もう令和であるので、一般の方が盲腸と言っているのは医療者にとっては虫垂の事で、盲腸といったら大腸の一部である、というのはもう言及しなくてもいいと思います。が、common diseaseで救急外来で良くみる疾患なので、見逃してほしくない疾患です。というか見逃しく多く胃腸炎で返され、次の日外来で調べたら穿孔しちゃってますけど、っていう症例が多すぎですね。穿孔拾った外科医の気持ちにもなってほしいなとブツブツいいたくなるわけです。CT読影もそうですが、病歴からしっかり疑い、憩室炎や胃腸炎など他の腹痛疾患としっかり鑑別できるようになりましょう。
■虫垂炎の場合の、虫垂の経過
①発症1日以内
何らかの閉塞機転(糞石嵌頓、内腔壁肥厚)により通過障害がおこるので、虫垂内に液体貯留し虫垂が腫大してきます。(虫垂は消化管ではないので消化酵素は分泌しないが、粘液は産生している。それがうっ滞するので)
②発症1日~2日以内
閉塞機転が解除されなければ通過障害も改善しないので感染もかぶります(川の水も流れがいいと綺麗で、流れが悪いと淀み菌が繁殖して汚くなるのです。胆石による感染→胆嚢炎も同様な機序)。感染がかぶるとそこから膿も虫垂内腔に産生され、さらに虫垂腫大が進みます。
③発症2日以降
老若男女問わず虫垂の大きさはさほど変わらないので、大体2日の経過で虫垂穿孔します。虫垂内の膿汁が腹腔内にもれるわけですが、その広がり方で経過が変わります。腹腔内全体に広がれば汎発性腹膜炎となり、限局していれば限局性腹膜炎(用語を勝手に作りました。限局の仕方で、膿瘍形成虫垂炎や蜂窩織性虫垂炎があります)。汎発性の場合は、敗血症に移行し無治療なら確実に死亡し、限局性の場合はむしろほっといても治りますがものすごく経過が長いですね。なので原始人が虫垂炎になったら限局性腹膜炎であった場合のみ生き残っていたのでしょう。
※日本では、炎症が虫垂内腔に留まっている一番軽症の虫垂炎をカタル性といい、それより少し進行した程度の虫垂炎を蜂窩織性といいます。しかしこれは間違いで、蜂窩織性といったらもう虫垂穿孔しているのです。
以上を大きな軸として、これを念頭に、どのような臨床経過(症状など)をたどるのでしょうか。
■臨床経過
①発症1日以内
閉塞機転はあるが虫垂腫大が始まる前もしくは腫大初期なので、虫垂内内壁のみに刺激があります。それによる症状は、心窩部違和感と悪心嘔吐で、発熱や下痢はあることもありますがかなりイレギュラーです。
ここで思い出してほしいのが、医学生がCBTやOSCEで習った知識です。腹部聴診してグル音(腸管蠕動音)を確認すると、腸管以外に疾患がある時(例えば肺や心臓)は、腸管はびっくりして動かなくなりグル音低下、腸管自体に疾患がある場合は腸管頑張ってグル音亢進、腸管がもう死んでしまったらグル音消失するのでした。
以上から、虫垂は消化管ではないので、虫垂内内壁刺激では、グル音は消失し腸管蠕動が弱まっているので悪心嘔吐が出現します。腸管動いていないので下痢は起こりません。発熱もまだ感染被っていないので認めません。虫垂内腔の刺激であるのでまだ内臓痛であり、心窩部痛のみです。
普通、嘔吐は数回程度でそれ以上に悪心嘔吐が強いとらしくありません。もう腸管自体が悪くなっているウイルス腸炎等を想起するわけです。
②発症1~2日以内
感染がかぶり腫大が進むので、虫垂外壁もしくは壁外に炎症が進む時期です。なので内臓痛から体性痛が移行するので、心窩部痛ではなく右下腹部痛となります。痛みもこの時期にpeakとなります。感染状態なので採血で炎症所見が上昇し始めるのもこの頃です。
③発症2日以上
右下腹部痛は軽快傾向となります。何故でしょうか。穿孔したからです。穿孔する前は虫垂内腔圧が強くでその刺激に痛みが出現していましたが、穿孔すると内腔圧が下がるためです。では採血もよくなっているかというと、WBC18,000やCRP20以上など強い炎症所見を認めます。汎発性腹膜炎から敗血症に至っている場合はむしろ炎症所見は正常の可能性もあるので気を付けてください。
以上が虫垂炎の全体像です。
一応、できるだけ理由付きで説明させていただきました。個人的には、それが医学書や講義などで欠けていると常々思っていました。この記事を読んでいただき、少しでも分かりやすいと感じていただければ嬉しいです!
今後はさらに診断後の対応(治療法)や、他疾患でも同様なことをしていきたいです。
最後に、問題です。解答は別の記事で言いたいです。
問1. 憩室炎は、悪心嘔吐が強い。Yes or no
問2.虫垂穿孔からの腹膜炎が、汎発性ではなく限局性になる時はどういう時だろうか
問3 とくに既往歴のない20代の男性が、発症5日目に来院した。右下腹部痛を訴え虫垂炎を疑った。緊急手術を必要とするだろうか
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